【ヴェラ・ゴルノスタエヴァ先生の想い出に 日本の門下生によるコンサート】より
J.S.バッハ=F.ブゾーニ:
コラール前奏曲"来たれ、異教徒の救い主よ"BWV659
F.リスト:
2つの伝説より"波を渡るパオラの聖フランチェスコ"
吉永哲道(ピアノ)
Tetsumichi YOSHINAGA, piano
2016年4月26日、ヤマハホールでの収録
《演奏会当日のプログラムノートより》
「堂々と!この作品を弾く時、貴方はパオラの聖フランチェスコと共に波の上を歩んで行くのだから。」
2015年1月19日、私が11歳の時にヤマハマスタークラスでお会いして以来、モスクワ音楽院修了まで実に18年に渡り薫陶を受けたヴェーラ・ゴルノスターエヴァ先生が亡くなられました。冒頭の言葉は留学時代、リストの《二つの伝説》のレッスンで先生がおっしゃられた事なのですが、その時の先生の誇らしげな表情とともに今も私の記憶の引き出しに大切にしまわれています。
先生はまさにロシア語で言うところのкультурный человек(教養の高い文化人)であり、レッスンでは作曲家についての独自の見解や、また文学や絵画等を引き合いに音楽作品について語って下さる事が少なくありませんでした(10代の子供に対してもです!)。例えば、J.S.バッハの作品では常に宗教について触れられ、その様な体験の積み重ねが、私の中に音楽が何か真剣で深遠なものであるという思考を形成していった事は疑う余地がありません。
そして響きの重要性。
「音が響いていない」、「貴方の音には本物の声がない!」── 18年の間、いったい幾度そうご指摘下さった事でしょうか。勿論、人の琴線に触れる美しい響きの追究に終わりはありませんが、今の私の音が少しでも先生の御心にかなうものであるならば、私はただそれだけで幸せです。
そして先生の事を思い起こす度に…今更ながら思うのです。
芸術家として確固たる信念をお持ちになり音楽に生涯を捧げられたヴェーラ先生の生き方こそ、
Maestoso(堂々と)そのもではなかったかと。
感謝と、追悼の祈りを込めて演奏致します。
吉永哲道
2021年04月25日
【演奏音源】2016年4月26日の演奏会より。
posted by tetsumichi at 07:00| 演奏音源