2020年04月18日

30.ヴェーラ先生との出会い。── ゴルノスターエヴァ先生の事

色褪せる事のない、出会いの記憶。
彼(彼女)の、その後の人生を導く事になる出会い。

11歳の春、私は初めて、後のモスクワでの留学期間を含め18年間師事する事となるヴェーラ・ゴルノスターエヴァ先生にお会いしました。そこで私の身に起きた二つのエピソードを、お話しさせていただこうと思います。

それは何人かの日本の子供たちが先生の前で演奏し、その場で感想やアドバイスをいただくオーディションのような場で、私の演奏プログラムにはショパンの作品10のエチュード集の最終曲、所謂《革命のエチュード》が入っていました。一通り演奏を終えいざ先生と向かい合った時……私はどんな気持ちでいたのでしょうか?
このエチュードの演奏に対し、ヴェーラ先生はこの様な事をおっしゃられたのです。

「今のあなたには、技術的にも精神的にもこの作品は演奏できないのですよ」

そして自らピアノに向かわれると、全曲を通して演奏して下さったのです!
その演奏とお姿は、ヴェーラ先生との最初の出会いとして、私の脳裏に強烈に刻まれる事となりました。

先生がご自身の著作《コンサートの後の二時間》の中で、ショパンの最後のマズルカについてこの様に綴られています。

“……ショパン最後の「マズルカ」(へ短調作品68)。ひきずりこまれそうな茫然自失、疲労、孤独が漂う。やり場のない悲しみ、死を目前にした嘆き……
ショパンの最期の日々を語ったどんな文章も、この音楽以上のものを私たちに語ってはいない!”

素晴らしい音楽作品は、それ自体が全てを語り得る。
ヴェーラ先生の演奏は、11歳の子供の私にでさえ、ショパン自身が味わったであろう身を引き裂かれる様な苦しみや悲しみ、憤り、絶望を教えて下さったのでしょう。

音楽に語らせる事。
音楽への奉仕。
先生はまさに、その心のあり方を体現されている芸術家でいらっしゃいました。

もう一つのエピソードは、次回のブログで書かせていただきます。


posted by tetsumichi at 15:00| ロシアピアニズム