2019年07月15日

29.聞こえてくる。

先月、ミハイル・プレトニョフ氏のピアノリサイタル、横浜(6月16日、フィリアホール)東京(6月17日、東京オペラシティ コンサートホール)の2公演に足を運びました。

彼にしか創造し得ない響きの世界に圧倒されながら、思った事があります。
それは、「聴いている(聴こうとしている)」と「聞こえている」事の感覚の違い。
両者の間には、非常に大きな隔たりがあるのではないかと……。

例えばJ.S.バッハの二声を弾く時。
一般的には音をよく聴きなさい、バランスをよく聴きなさいと言います。けれど、聴き手はどうでしょうか?常に二声を意識的に聴き分けようと頑張って聴いている……?

答えは否。

それでは疲れてしまい、音楽を味わうどころではなくなってしまいます。
つまり弾き手も、「自らが能動的に聴かずとも」二つの声部がすっきりと「聞こえてくるように」弾かなければならない。そのレヴェルに至って初めて、聞きやすく理想的なバランスが実現されたと言えるのです。

気が遠くなる程難しい事なのですが……私は40年程ピアノを弾いてきて、ようやくその事に思い至りました。

posted by tetsumichi at 07:00| 演奏技術について