彼にしか創造し得ない響きの世界に圧倒されながら、思った事があります。
それは、「聴いている(聴こうとしている)」と「聞こえている」事の感覚の違い。
両者の間には、非常に大きな隔たりがあるのではないかと……。
例えばJ.S.バッハの二声を弾く時。
一般的には音をよく聴きなさい、バランスをよく聴きなさいと言います。けれど、聴き手はどうでしょうか?常に二声を意識的に聴き分けようと頑張って聴いている……?
答えは否。
それでは疲れてしまい、音楽を味わうどころではなくなってしまいます。
つまり弾き手も、「自らが能動的に聴かずとも」二つの声部がすっきりと「聞こえてくるように」弾かなければならない。そのレヴェルに至って初めて、聞きやすく理想的なバランスが実現されたと言えるのです。
気が遠くなる程難しい事なのですが……私は40年程ピアノを弾いてきて、ようやくその事に思い至りました。
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