2019年05月15日

26.種をまく。

「ソムリエがワインをテイスティングするように、貴方はここで様々なド(の音)の響きを味わわなければならないのですよ。」

モーツァルトのピアノソナタハ長調KV330のレッスンで、ゴルノスターエヴァ先生が第2楽章冒頭の3つのド音を様々なタッチで響かせながら、そうおっしゃられた事があった。
当時私は小学6年生、ソムリエという職業を知っていたかどうかすら甚だ怪しいのだが……兎にも角にも、先生は相手が子供だからと手加減する事は一切なく、響きを聴く事の重要性を半ば洗脳するかの如く(!)、10代の私に徹底的に植え付けて下さったのである。


教師の役割とは何だろうか?
レッスンの場において演奏の体裁を整える事を否定はしないが……私はそれよりも、生徒の心の土壌に種をまく事こそが教師本来の役割であると思う。
例えその場で生徒が理解、実践できなくとも、その生徒の中に“何か”が残るかどうか。
教師が何かを残す事が出来れば、いずれそれは、生徒自身の努力によって美しい花を咲かせるだろう。

ゴルノスターエヴァ先生は、そうして日本の生徒たちを育てて下さった。
私は、至らずとも先生のその精神を受け継いで音楽に従事する事が、自分自身がなすべき務めだと思っている。


posted by tetsumichi at 07:00| ロシアピアニズム