《三人の男が石を運んでいるところに出くわした人が、その三人に訊ねた。
なぜ貴方は石を運んでいるのですか?
一人目はこう答えた。
命令されたからだよ。運べと言われたからやっているんだ。
二人目はこう答えた。
僕には愛する家族がいるんだ。彼らの為に僕は働いている。これが僕の仕事なんだ。
三人目はこう答えた。
向こうを見て。僕たちは今、教会を建てているんだ。これは僕の信仰なんだ。》
モスクワで留学生活を始めて恐らく2、3年目の頃、同じく音楽院に在学していた先輩の日本人ピアニスト(今も私が尊敬してやまないピアニストのお一人である)から聞いたこのお話は、20年近くの年月を経た今尚鮮明に、私の記憶の引き出しにしまわれている。
音楽とは、広義には人間の生き様の表れだ。
つい目先のことばかりに気を取られあくせくしがちな日々にあって、私はしばしば、“命令されたからか、愛する者の為なのか、自分の信仰によってなのか。人の生き方には、大きく分けてその三つのステージがあるんだよ。これは神父様から聞いたお話だけれど……”と、友人が穏やかな口調で教えてくれたこの話を思い出し、三人の男の返答に例えられた人生のステージについて考える。
自分が、どの人生のステージで生きているのか。
自分は、どの人生のステージで生きるべきなのか。
この自問自答の過程に、音楽に対して常に謙虚である為 ── 人生を正しく歩んでいく為の道標があるからだ。
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