2018年08月05日

13.ポゴレリチの演奏に思う。

先日、師匠である大野眞嗣先生のご自宅で、NHKで放映されたポゴレリチが奈良の正暦寺福寿院客殿でピアノを演奏する映像を見せて頂いた。

何と言えばよいのだろう……シンプルでありながら、非常に多くを語りかけてくる演奏。
雄弁でありながら、水を打ったような静寂に支配された演奏。

“演奏活動から遠ざかっていた時期に、とにかく響きに耳を傾ける事を課題としました。”
“響きの構造に耳を傾けるのです。”

演奏の合間に挿入されたインタビューの中でその様な話があったのだが、ただひたすらに立ち昇る響きに耳を澄ませ作品の深奥へ分け入っていくその演奏には、静かでありながら強烈な存在感があり、引き込まれずにはいられなかった。

演奏には情熱が必要だ。
だが奏者の情熱(エネルギー)が何に費やされるかによって、その演奏は全く異なる印象を生む結果となる。ポゴレリチは私ごとき凡人が想像もつかない程、“響きに耳を傾ける”事に膨大なエネルギーを費やしているのだろう。
弾くのではなく、聴く。
それを極限まで突き詰めると、人は瞑想の境地へ至るのかも知れない。

改めて思った。
響きを聴くとは、何と奥深く、神秘的な行為なのだろうと。



posted by tetsumichi at 07:00| 演奏家