R.シューマン:ダヴィッド同盟舞曲集 Op.6
吉永哲道(ピアノ)
Tetsumichi YOSHINAGA, piano
2014年3月22日、宗次ホールでの収録
《この間、オイゼビウスがそっと戸をあけてはいってきた。この男の蒼白い顔にうかぶ、皮肉な、いかにも好奇心をそそるような微笑は君も知っているはずだ。僕はフロレスタンといっしょにピアノの前にすわっていた。このフロレスタンというのは、君も知っている通り、およそ来るべきもの、新しいもの、異常なものなら何でもみな予感するという、まれに見る音楽的な男の一人だ。しかし、この日はさすがの彼もめんくらった。「諸君、帽子をとりたまえ、天才だ」といってオイゼビウスが楽譜を一つ見せた。標
題は見えなかったけれども、僕はなにげなくばらばらとめくってみた。(中略)
「さあ、やらないか」とフロレスタンがいうと、オイゼビウスが承知したので、僕らは出窓によりかかって耳をすませた。オイゼビウスはまるで霊感がのりうつったようにひいた。》
音楽評論家としてのシューマンは、自らの内にオイゼビウスとフロレスタンという異なる人格を作り、しばしば彼らに会話、議論をさせる形で作品論を執筆しました。
活発で情熱的なフロレスタン。
物静かで夢想家のオイゼビウス。
シューマンの作品を理解する上で大変重要な、対照をなすこれら二つの人格が音楽で顕著に表されたのが、このダヴィッド同盟舞曲集です(初版では各曲の最後に、シューマン自身がフロレスタンの頭文字であるF、オイゼビウスのそれであるEを書き記しています)。
彼らの生き生きとした振る舞いや語り口を想像しながら、お聴きいただければ嬉しく思います。
吉永哲道
*各曲ごとの頭出しの時間は、YouTubeの概要欄をご覧下さい。
(ピアニスト 吉永哲道 https://www.youtube.com/channel/UCtjXmRqPGkGV4LtWluj7ewg)