2020年05月23日

【演奏音源】2019年11月22日のリサイタルより。

2009年から2019年までの演奏の録音からピックアップし、月に1〜2回程度、年をさかのぼる順で掲載致します。
どうぞお聴きいただければ嬉しく思います。

第1回は、2019年11月22日のリサイタルより、J.S.バッハの作品です。


【カンマーザールサロンコンサート 吉永哲道ピアノリサイタル 〜J.S.バッハへの旅 vol.1(2019)〜】より

J.S.バッハ:
最愛の兄の旅立ちに寄せるカプリッチョ 変ロ長調 BWV992
カンタータBWV147より「主よ、人の望みの喜びよ」(M.ヘス編曲)

2019年11月22日、カンマーザール in 立川での収録



posted by tetsumichi at 12:00| 演奏音源

2020年05月11日

31.謙虚であれ。── ゴルノスターエヴァ先生の事

前回の記事(「30.ヴェーラ先生との出会い」)の続き、もう一つのエピソードです。

私が11歳だった1990年当時、日本のクラシック界では、1985年にショパンコンクールで優勝したスタニスラフ・ブーニンがまだまだ冷めやまらぬフィーバーを巻き起こしていました。何せ両国の国技館で、単独でのリサイタルを開いてしまったほどです。
小学生だった私もご多分にもれずブーニンにすっかり心酔しており、自宅のピアノ部屋の壁にはブーニンのポスターを貼り、表紙に《スタニスラフ・ブーニン 〜衝撃のショパンコンクール〜》とのタイトル(うろ覚えですが)とブーニンの顔写真が印刷された、彼がショパンコンクールで実際に演奏した作品集と言うコンセプトで編纂された楽譜を使って、革命のエチュードを練習していたのです。そして私は ── 子供の無邪気さというのは全くもって恐ろしいもので ── その楽譜を携え件のオーディションに臨んだのでした。

果たして、ヴェーラ先生は会場全体に向かってこの様にお話しされたのです。

「皆さん、彼が持ってきたこの楽譜を見て下さい。この楽譜の表紙には、スタニスラフ・ブーニンと言う名前と彼の顔写真が大きく印刷され、その下に、ショパンと小さく書かれています。私は勿論、ブーニンが大変素晴らしいピアニストである事は知っています。しかし、この楽譜はブーニンがこれらの作品を弾いたからという理由だけで出版されたものに過ぎません。これは作曲家ショパンに対する冒涜です。」

私は今尚、いえ、今になったからこそ、このヴェーラ先生のお話は自分にとって、一生の教訓を含んでいたのだと思えてならないのです。

作曲家への敬意を忘れてはならない事。
音楽への敬意こそが、真の意味での音楽への愛である事。

私が持参した楽譜をご覧になられたヴェーラ先生は、その日会場に居合わせた全ての人に、それを理解する事の大切さを訴えずにはいられなかったのだと思います。
だからこそ、私の記憶の奥底にも留まる事となった。

音楽が非常に真剣なものである事を、私はヴェーラ先生から学びました。
10代の内からその様な経験を重ねられた事を、私は心の底から幸いに思っています。


*写真は2005年6月27日、モスクワ音楽院大ホールの舞台裏にてヴェーラ先生と。

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posted by tetsumichi at 11:00| ロシアピアニズム